Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 職員室へと走りながら、みのりは顎が震えて涙が込み上げてくるのが分かった。でも、職員室の同僚たちに見とがめられたくないので、唇を引き結んで必死にそれを堪えた。

 みのりの一日の中で何よりも大切だった時間が、今日で終わってしまった。

 心の準備もしていない内に、遼太郎との個別指導が終わってしまったことに、みのりはかなりの衝撃を受けていた。


 静かなひと時、誰にも邪魔されることなく遼太郎の凛々しい横顔を見つめることも、もうできなくなる。空気を伝ってくる遼太郎の暖かい息吹を感じることも、もうできない。


 その現実が一気にみのりに押し寄せて、もう少しで遼太郎の前で涙を見せてしまうところだった。

 あの場面で泣いて感情を見せてしまっていたら、この気持ちに気づかれていただろう。

 遼太郎はみのりのことを「オバサンじゃない」と断言していたが、十八歳の遼太郎からしてみたら、随分年増の三十女に恋されていると知るだけで、ショックを受け戸惑うに違いない。

 そして、きっと迷惑に思うことだろう。


 自分の気持ちを遼太郎に知られてしまう……。それを想像するだけで、発狂しそうなくらいの羞恥心に襲われる。

 だから、みのりは遼太郎への深く切ない想いを心の奥底に閉じ込めて、決して気づかれないように常に気を付けていた。


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