Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「ということは、先生のお父さんって、お坊さんなんですか?」
と、遼太郎は目を見開いて確認する。
「そうなの。実家がお寺って、生徒にはもちろん言ってないし、あんまり先生たちにも言ってないから、びっくりしちゃうよね。でも、私の父のそのお坊さんがご祈祷してくれてるから、きっとご利益あると思うよ。」
実家のことをいうのは照れくさいからだろうか、みのりはおどけたように小さく笑った。
「あ…、ありがとうございます。」
遼太郎は、両手に握ったジップ袋を見下ろして、行儀よく頭を下げた。
心が感謝とみのりへの想いに震え、それが手にまで伝わってきているのが、自分の目からも確認できた。
「狩野くんの入試には間に合ってよかったわ。…なんて、狩野くんは指定校推薦だし、大丈夫だとは思うけど。でも、体調を崩したり、事故にあったりしないように……ね。」
昨日までのよそよそしさはなく、いつものように優しく微笑んで首をかしげるみのりの仕草に、遼太郎は胸が絞られ息を呑んだ。
言葉を返せず、ただ黙ってお礼をするように頷くしかできない。
「それじゃ、明日からの準備もあるのに、わざわざ呼び出してごめんね。」
と、みのりが帰るための言葉を発したので、遼太郎は焦った。