Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「…気を付けて行ってきてね。」
顔を上げると手をほどき、みのりは微笑んだ。
遼太郎はそれに応えることも、頷くこともできず、ただみのりを見つめる。
「ここは明るいし人もいるから、今日は私に見送らせて。」
みのりにここまで促されると、もう帰らざるを得ない。
ようやく遼太郎は、かろうじてもう一度頭を下げると、ジップ袋をモッズコートのポケットに入れ、そばに置いてあった自転車にまたがった。
みのりに視線を向けると、微笑みを湛えて頷いてくれて、見えない手で背中を優しく押し出されるようだった。
自然に遼太郎は足に力を込めて、ペダルをこぎ出していた。
50mほど行ったところで、遼太郎はコンビニの方へと振り返ってみる。
すると、みのりはまだそのまま見送ってくれていた。コンビニの明かりを背景に、その姿がシルエットになって浮かび上がっているその姿は、遼太郎が振り返ったのに気が付いて、そのシルエットは片手を上げて振ってくれた。
あの手の感触が、まだ自分の手のひらには残っている…。
遼太郎の心にはエネルギーが満タンに充填され、再び前を向くと力を込めてペダルを踏んだ。