Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
――いっそのこと、あの最後の試合の時、この気持ちに気がつかなければよかった……。
みのりはそう思わずにはいられなかった。
淡くほのかな想いのままだったら、遼太郎が卒業するまでの短い貴重な時間、以前のように楽しい時間を過ごすことができたのに……。
いつの間にか頬を伝っていた涙を、みのりは手の甲で拭った。そして、気を取り直してエンジンをかけ、ハンドルを握りなおした。
それでも、一度堰を切った涙は止まることなく、運転する間もしばらく滴となってみのりのスーツを濡らした。
自宅に戻ってきた遼太郎は、やはり「ただいま」も言わずに自分の部屋へと駆け込んだ。
その気配を察して、母親が声をかける。
「遼太郎!どこに行ってたの?夕ご飯できてるのに、いないんだから!」
「ちょっとコンビニ。明日の準備してて、要るものがあって。」
遼太郎は台所に向かってそう声を張り上げながら、ポケットの中からみのりから受け取ったジップ袋を取り出した。
袋の中には、最初に目についたマスクやカイロだけでなく、風邪薬や胃腸薬、鎮痛剤などの常備薬に、のど飴やポケットティッシュなども入っていた。
それに、封筒に入れられたお守り。封筒から出してみると、「霊鷲山 智徳寺」と織り込まれた紫のお守りだった。