Rhapsody in Love 〜約束の場所〜

22 アパートでの出来事




 タクシーに乗って10分弱経ったところで、みのりが告げた所へとさしかかった。


「先生、南部中学まで来ましたけど、ここからどう行くんですか?」


 タクシーの運転手の代わりに、遼太郎がみのりに尋ねる。


「右手の橋を渡って、左に曲がるとアパートが見えるからそこへ…。」

「かしこまりました。」


 みのりの弱々しい声に、運転手が答える。

 遼太郎が目を上げると、みのりの言った通りにアパートが見えた。街中の喧騒から離れた川沿いの静かなところだ。


 みのりが財布から千円札を3枚ほど取り出して、遼太郎に渡す。


「…狩野くん、これ。自転車のある場所まで戻らないといけないでしょ。今日はお世話かけちゃって、ごめんね…。」


 みのりはここで自分だけ降りて、このまま遼太郎はとんぼ返りさせる気だ。


――冗談じゃない……!


 それではタクシー代を浪費するだけで、ここまで付き添ってきた意味がない。タクシーが止まると、遼太郎は運転手に表示されている料金を渡し、精算してもらった。


「男の子は、家に来させないようにしてたんだけど…。」


 タクシーを降りて、遼太郎に支えられアパートの外階段を上りながら、みのりがつぶやいた。

< 563 / 743 >

この作品をシェア

pagetop