Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 呼ばれたのは気のせいだったのかと、遼太郎が思い直し、その場をそっと離れようとしたところで、


「狩野くん…」


と、もう一度呼ばれた。

 今度は気のせいではない。


「先生…?」


 もう一度覗き込むと、みのりは目を閉じたまま、


「狩野くん、頑張って…。」


と、つぶやいた。


 遼太郎は、みのりがうわ言を言っているのだと、その時気がついた。

 胸元で綿毛布を握ったみのりの手に力が入る。

 みのりの夢の中に自分がいて、その自分の名をみのりは何度も呼び、心の底から優しく励ましてくれている。


 その瞬間、遼太郎の中の感情が暴れだした。

 〝愛しい〟〝好きだ〟、そのどの言葉にも当てはまらない深く激しい感情。


 痛みに堪えるように、歯を食い縛り目をつむる。大腿の上の拳を固く握って、この感情の嵐が通り過ぎるまで、何とか自分を必死でコントロールした。


 遼太郎は枕辺に膝をついて、みのりの寝顔を改めて見つめ直した。

 日が傾き、オレンジがかって柔らかくなった陽射しが、先ほどよりも深く部屋に射し込んで、みのりの枕元を照らしている。



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