Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 かつて、石原に誘われて、このバンドのライブに行ったことがある。ライブの後、それぞれ家には帰ったが、コンサートホール近くの公園で、石原から濃厚な口づけと抱擁を受けたことを思い出した。

 切ない回想というより、今となっては後悔の念のようなものが胸に渦巻く。


「仲松さんは、何飲む?」


 江口からそう振られて、みのりは気を取り直した。


「私は…、ノンアルコールのカクテルなんかあります?」


と、ウェイターに尋ねたとき、みのりの携帯電話が鳴った。
 ウェイターから差し出されたリストを指差して注文しながら、みのりはバッグから電話を取り出した。
 澄子からの着信だ。電話に出ながら、音楽の聞こえない場所へと移動する。


 席に帰ってきた時のみのりの顔が、少し曇っているのを見て、


「どうかした?」


と訊く江口は、早速ビールを飲み始めていた。


「澄ちゃんが来れなくなりました。」

「なんで?」

「3年1組の山下さんが、飲酒で補導されたそうです。」

「…あの、バカ…!!」


 みのりの説明に、江口は天を仰いで溜め息を吐いた。

 この山下という生徒のことを、3年部の江口はよく知っているらしいが、彼女は地理選択者なので、みのり自身はあまり知らない。


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