Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「江口先生…。こんな私を好きになってくれて、ありがとうございます。でも、やっぱり…。」
みのりは決定的なことは口に出せずに、首を横に振って意思を表した。
「…そうかぁ…。」
江口の落胆した声の響きを聞いて、みのりはこの話は終わってくれたと思った。そして、江口のコートのポケットから手を引き抜こうとした瞬間、江口はもう一度その手を握り直した。ギョッとして、みのりは江口を見つめる。
「仲松さん。頼む!一度でいいから、抱かせてくれないか。そうすれば、諦められると思うから…!」
江口は真っ赤な顔で、必死になって懇願した。この場合の〝抱く〟とは、体の関係を持つことだと、みのりはすぐに解った。
――江口先生…、本当に不器用なんだなぁ…。
付き合ってもいない女性に、面と向かって直接的に「抱かせてくれ」と頼んでも、引かれるのが落ちだ。
でも、江口のこの余裕のなさは、却ってみのりに落ち着きを与えた。
「…私、9月まで付き合ってた人には、奥さんと子どもがいました。その人たちを裏切ってるのが、とても苦しかった…。彼に罪を重ねさせてる気がして、すごく辛かった…。だから、別れたんです。もし今、江口先生とそういう関係になったら、同じことの繰り返しです。江口先生にとって、奥さんもお子さんたちも、かけがえのない存在のはずです。大事にしてあげて下さい。」