Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
みのりが真剣な目で、江口を見つめてそう訴えると、江口も黙ったまま真剣な目でみのりを見つめた。
「それに…、今、私、心の底から本当に好きな人がいるんです。その人が心の中にいる限り、他の人に抱かれるなんて出来ません。」
そのことを告白するときは、否が応でも遼太郎が、みのりの心を占拠した。
けれども、遼太郎に抱かれることなど、到底あり得ない。成就することのない遼太郎への想いは、みのりの心を切なく震えさせ、涙が溢れそうになる。
「江口先生のこと、嫌いだから…とか、そういうんじゃなくて。先生のことは、本当にとても尊敬しています。」
コートのポケットから手を出して、自分の手を包んでいた江口の手を、みのりは両手で握り直した。
江口の手はとても大きく、みのりの両手でも包みきれない。江口はその手に視線を移し、やはり黙ったまま、切ない目で再びみのりを見つめる。
「今日は、本当にありがとうございました。やっぱり今日は、これで帰ります。」
みのりは江口の手を離し、客待ちをしていたタクシーに乗り込む。
タクシーが発進し、江口に会釈をした時、街頭にたたずみこちらを見ていた江口の姿が、みのりの目に映った。その肩を落とした寂しげな表情に、みのりの心がチクリと痛んだ。