Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
どうしようもない状況だとは分かっているけれど、どんな場合でも誰かを振るというのは、後味の悪いものだ。
せっかくの好意を無にしているようで、自分がものすごく無情な人間のように感じられる。かと言って、かすかなときめきさえ感じたことのない江口の求めに応じて、彼に抱かれることは想像だにできない。
数年前、石原と付き合う前のみのりならば、「まあ、いいか」と思って応じていたかもしれない。石原のことは好きだったが、やはり一線を越えるときには、今よりもずっと軽い気持ちだったように感じる。
年を取って、色んなことを経験してきた分、慎重になる部分もある。その慎重になる分、出会いがあってもそれが恋愛へと育っていくことが難しくなるのかもしれない。
愛しい人にすべてを投げ出して自分を委ね、愛された経験があればこそ、江口の言うように、人肌が恋しく寂しくなることは、もちろんある。
もう一度、あの恍惚の中に身を沈めたい…。
だけど、それが素晴らしいものなるのは、抱かれる相手が愛しい人なればこそ。それが解っているからこそ、愛しい人以外には触れられたくない。
今のみのりが愛しいと思うのは、遼太郎だけだ。触れられたいのは、遼太郎しかいない。