Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 見るたびに違う生徒なので、きっと大勢の指導をしているのだと、遼太郎は思った。
 一人一人の時間は短いのだろうが、みのりはずっとこの渡り廊下に張り付いている。膝掛けはかけていても、手がかじかむくらいの寒さだ。

 けれども、みのりはその寒さなど感じていないようだ。それは、その熱のこもった真剣な表情を見れば判る。


 遼太郎は、声をかけるのを躊躇した。自分の態度のせいで、みのりに対しては気が引けているので、話しかけるのはやはり気まずかった。

 それに、今大変な状況なのは、個別指導を受けている生徒たちの方だ。遼太郎の夢の実現のために一生懸命になってくれたように、今みのりはあの生徒たちのために頑張っている。自分はそれを邪魔する権利はないし、みのりのためになりたいと思った。
 とにかく、レポートのことは自分でどうにかするしかない。



 部活に行って後輩相手の練習中、遼太郎はみのりのために、あることを思いついた。
 しかし、練習を途中で抜けることは叶わず、時間だけが過ぎていき、結局職員室に行けたのは練習が終わって、しばらくしてからだった。


 泥で汚れたジャージの上からウインドブレーカーの上下を着て、急いでコンビニへ行って帰ってきた遼太郎は、職員用の通用口の前に自転車を停めて階段を駆け上った。


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