Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 職員室でみのりの姿を探したが、そこにはなく、やはり渡り廊下の電灯の下で個別指導の最中だった。

 遼太郎は人気のない職員室へ戻り、今度は澄子の姿を探す。そして、給湯室にいた澄子を見つけて、声をかけた。


「山崎先生、ちょっとお願いしたいことが…。」


 帰る準備のためにコーヒーカップを洗っていた澄子が、思いもかけない遼太郎を見て目を丸くする。


「あら、狩野くん。…そうか、部活に来てるんだ。どうしたの?」


 給湯室のテーブルを挟んで、澄子は手を拭きながら遼太郎に向き直る。


「あの…、これ、仲松先生に渡してほしいんですけど…。」


と、遼太郎はコンビニのレジ袋を差し出した。
 中から、5個パックのカイロとカフェラテがチラリと覗いて見える。


「どうして、わざわざ私が…。みのりさん渡り廊下にいるんだから、直接自分で渡せばいいじゃないの。多分、個別指導ももうすぐ終わるよ?」


 澄子にそう言われて、遼太郎はグッとい息を呑みこみ、唇を噛んだ。そうできるものなら、澄子に言われなくてもそうしている。


「それが…、俺、仲松先生にちょっと申し訳ないことをして、話しかけにくいっていうか…。」


 そう告白する遼太郎は、とても切ない表情をした。
 本気で恋していなければ、できない顔だ。


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