Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
生徒たちは春からの新しい生活を楽しみに、ただ前を向いて歩いていて、卒業してしまう感傷に気が付かないでいる者がほとんどだった。
仲の良い友達や恋人とも離れてしまうことを想像したのだろうか、一部の女子生徒は涙を浮かべていた。
「ごめん…。ごめんね、しんみりさせちゃって。みんなが立派に旅立っていくのは、嬉しいんだよ。みんなだって、卒業したいよね。そのためにも、さぁ、レポート頑張って!」
そう明るく言いながら、みのりは教卓まで戻って、そこに置いてあったハンカチで目元を拭った。
「白濱くん!いつまでも、私のことを見てなくていいから、作業を続けて。」
すかさずなされたみのりの指摘に、白濱はハッとして顔を赤くし、焦って目を伏せた。
遼太郎も心配そうに視線を向けてくれていることに、みのりは気がついていたが、そちらを見る勇気はなかった。
見てしまったら、きっと涙は止まらなくなる。そして、気持ちを読まれてしまう。
それでなくても、生徒の前で泣いてしまうなんて、とてつもない不覚だ。みのりは生徒たちの机を廻りながら、今目の前にあるやるべきことに、意識を集中した。