Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



「…じゃ、また来週出直します。」


 遼太郎は、そう答えるしかなかった。
 こんな状態のみのりを引き留めることは出来ないし、かと言って、こんな大事なことをメールや電話で伝えたくはなかった。


「それじゃ、狩野くん。ここ、鋏と糊があるから。レポート完成させて、ここに提出して帰ってね。」


「…はい。」


 机の上に置かれた鋏と糊を見ながら、遼太郎は頷いた。

 みのりが手早くコートを羽織ると、みのりの目に消沈した遼太郎の表情が映った。
 みのりは机の引き出しを開いて、そこから取り出した物を、遼太郎の手を取って手のひらの上に載せる。


「本当にごめんね、狩野くん。でもまた、来週会えるから、ね。」


 深い眼差しでそう言いながら、みのりは柔らかく微笑んでくれた。
 遼太郎はそのみのりの顔と、手のひらに載せられた小さなチョコレートを、交互に見つめる。

 みのりは微笑んではいたが、遼太郎に触れたその手は、微かに震えていた。


――先生に、何があったんだろう…。


 その震えに気付いた遼太郎は、途端にみのりのことが心配になった。急いでいるというよりも、焦っている感じだ。


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