Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「うん?ああ、ちょっとね…。」
そう答える石原の様子を見て、遼太郎は石原もみのりのファンなんだと直感したが、みのりが遼太郎に話した不倫相手だということまでは、洞察できなかった。
「今日は仮卒なんだろ?今さら何やってるんだ?」
みのりのことについて詮索されたくない石原は、さらりと話題を変える。
「日本史の卒業レポートなんです。提出しないと、卒業できないらしいから…。」
それを聞いた石原は、面白そうに髭で囲まれた口を緩めた。
「そう言えば、江口先生から聞いたけど、狩野は法南大学に行くんだって?すごいなぁ。花園予選もあったのに、よく頑張ったなぁ。」
と、石原は手放しに遼太郎を誉め、大学進学について喜んでくれた。
そう言う石原は、法南大学よりももっと偏差値の高い、誰が聞いてもあっと驚くような大学を出ていることを、遼太郎は知っていた。
それでいて、それを鼻にかけることなく、いつも真摯で前向きな態度で、生徒への思い遣りにも溢れている。
ラグビー部に入部したばかりの遼太郎の適性を見抜いて励まし、ラガーマンとしての基礎を作ってくれたのも、当時江口と共に顧問だったこの石原だ。