Rhapsody in Love 〜約束の場所〜


 その時教えていた生徒たちは皆卒業してしまっていて、勤務している職員の大半は知っていても、千人を超える在校生たちは最初から覚え直さなくてはならなかった。

 まだ赴任して1か月もたっていない状態で、担任していないクラスの生徒については何も知らないも同然だ。


 気を取り直して、みのりは遼太郎に目を向け声をかける。


「昨日の傷は大丈夫?痛かったでしょう?」


 不意をつかれて、遼太郎はちょっと固まっていたが、左の手首を確認した後、みのりを見て目を細めた。


「大丈夫です。タックルくらうと、こんなのしょっちゅうだから。」


 ……と、そこで職員室に到着したので、会話はそれでおしまいになってしまった。
 江口先生を囲むように立っている3人を遠目に見守りながら、みのりは自分の席に落ち着く。それからすぐにみのりの意識は、1年生の日本史の準備のことに切り替わった。


 その日の放課後、予定通りに行われた職員会議の最中、みのりのポケットにある携帯電話のバイブが新着メールを知らせた。
 会議中だし、いつもならそのままにしているみのりだったが、この日はなにか〝虫の知らせ〟のようなものを感じ取った。まるで生徒が授業中にこっそりスマホをつついているみたいに、右手でペンを持ちながら左手を使って携帯電話を取り出し、机の下で開いてみる……。

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