Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 遼太郎の気転にみのりはニコリと笑い、


「今日はプリントはないから、風が吹いても大丈夫よ。」


と、冗談を言う。
 すると、遼太郎もふっと笑いを漏らしたが、すぐに緊張した面持ちに変わり、パイプ椅子に座って、みのりに向き直った。


「あのね……。」


 みのりは切り出してみたが、遼太郎の顔を見るとなかなか言葉が続かない。何と言えば、遼太郎を動かせるのか、言葉を探していた。


 みのりが言いよどむので、遼太郎は気を持たされて一層緊張を強めた。
 必要以上に神妙な表情の遼太郎に、みのりは不意に滑稽さを感じて、フフッと鼻から息を洩らす。

 笑われたので、遼太郎は不思議そうに戸惑っていたが、とりあえず緊張は解いてくれた。


「あのね、狩野くん。お願いがあるんだけど……。」

「お願い……?」


 なぜ他の生徒ではなく、自分にだけ頼み事があるのかと、遼太郎の表情に訝しさが加わる。


「うん、あのね、狩野くんに日本史の個別指導をしたいと思ってるんだけど、受けてくれるかな……?」


 みのりは遠慮がちに、遼太郎の様子を窺いながら、本題を打ち明けた。



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