Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



「日本史の…」


 遼太郎はみのりの言葉を反復するだけで、返事をしない。
 先日、あれだけの夏休みの課題を出したあとで、まだそれ以上の勉強を強いることになるのだから、快諾を渋るのは無理もない。


「狩野くんは、まだ部活も大変だし、他の教科の勉強もしなきゃいけないのは解ってるし、ましてや、日本史は得意な方だろうから、何でこれ以上個別指導まで……って思ってるでしょ?」


 みのりの畳みかける言葉に、遼太郎は渋い顔をして、無言でみのりを見つめた。


「でもね、これから模試の問題ももっと難しくなるだろうし、何より狩野くんだったら、特別何もしなくてもあれだけ出来るんだから、やったらすごーく出来るようになると思うんだけど……なぁ……」


と、みのりは続けたが、遼太郎の表情が明るくならないので、言葉を途切れさせる。


「やっぱり、今以上に負担が増えるのは、嫌だよねぇ……」


 口を引き結んだ遼太郎の眼差しに、申し訳なさが加わった。


 少し考えさせる時間をあげようと、みのりは黙って様子を見た。
 ……しかし遼太郎は、しばらく待っても「うん」とは言わなかった。


「今ここで踏ん張って頑張ることは、他のことにも活きてくると思うし、『やって良かった!』って、絶対後悔させない自信はあるんだけどな。」


 みのりは顔を近づけて、向き合っている遼太郎の目を覗き込んで、見据えながら言った。すると、驚いた遼太郎は身をのけ反らせて、顔を赤くする。



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