Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「あら、みのり?おかえり。」
台所にいた母親の喜美代が、スイカを着る手を止めて、振り返った。
「ただいま。わーい、スイカ!頂きます。」
と、みのりは荷物を放り投げて、テーブルに着いた。
「ちょっと、ちょっと、お嬢さん。手は洗いましたか?」
喜美代がスイカの皿を持ち上げて、子どもを扱うように言うと、みのりは肩をすくめて席を立った。
「お父さんが寝てると思うから、起こしてきて。スイカ切ったよって。」
洗面台の向こうの寝室を指差して、喜美代が言った。
父親の隆生(りゅうしょう)は、今はお盆の棚経の真っ最中だ。毎朝、早くから檀家さんを20件ずつバイクで回っており、お昼過ぎに帰ってきて、この時間には体を休めている。
――隆ちゃんが、棚経ぐらい手伝ってあげればいいのに……。
隆ちゃんというのは、隆行(たかゆき)といいみのりの弟だ。大学院のオーバードクターで、研究室に残って数学の研究をしている。大学も夏休みだろうに、一向に帰ってくるつもりはないらしい。
他に手伝ってくれる人間もいないので、住職の隆生は一人で300軒余りもの檀家の棚経を、2週間でこなしている。