出会い系ランニング
「どこ行くんだ？」
「オヤジに関係ない」
「お前オトコが出来たんじゃないだろうな？」
「うっせー！クソジジイ！」
ひときわ大きい声で発せられた笑美の乱暴な言葉に、俺はビビッてしまって冷や汗が流れた。
笑美が玄関から飛び出して来た途端、不自然に頭がグイッと引き戻されて、ガッターンと何かが倒れる大きい音と共に笑美が転んだようだった。
頭を‥髪の毛を引っ張られたのか？
衝撃的すぎて動けずにいると、
「‥またやってるねぇ」
聞こえた声は隣の家からだった。
「止めに行くかい？」
どうやら老夫婦らしい。
「もう少し様子をみようかね」
その内に、見えない玄関でガタガタ音がして、バタンと扉が閉まる音がした。
「行くな、わかったな」
声だけで、絶対的な威圧感、絶対的な命令だった。
静寂が続く。
「‥静かになったねぇ」
隣の家から、テレビの音がして来た。
俺は変な汗が引いてすっかり身体が冷えるまで気付かずに立ち尽くしていた。
玄関扉の向こうで、笑美が泣いている姿が浮かんで、胸が苦しかった。
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