ヴァージン=ロード
翠さんに呼ばれ、私は事務所に来ていた。
あれからずっと、宗広さんとは連絡がついていなかった。
風の噂では、建築デザイナーの白木宗広はイタリアにいるらしいとのことだった。
良の結婚式に出てから、宗広さんのことを考えない日はなかった。
ずっと、考えていた。
自分が何をするべきなのか、何を伝えるべきなのかを。
「翠さん?」
「お、待ってたよ」
部屋に入ると、翠さんはデスクに乗っていた何かをぽいっと投げてきた。
「はい、これ」
「あ」
慌ててキャッチしたそれは、冊子だ。あまりに無造作に手渡されたのは、「黒猫」だった。
「できたんですか?」
表紙は、黒地に銀の文字で「黒猫の散歩―キャットウォーク― 白木宗広作品集」と書かれていた。