ヴァージン=ロード
「伊咲って、本名なんですね」
「はい、そうなんです」
「これから、お食事でもどうですか?」
宗広さんの誘いに、私は時計を見た。確かに早い夕食にはちょうどよさそうな時間だ。断る理由もなかったので、誘いに乗ることにした。
宗広さんが荷物を片付けるのを待って、私達は並んで歩きだした。
「近くにお気に入りのレストランがあるんです。ぜひそこにしませんか?」
「はい、お任せします」
宗広さんが少しだけ不思議そうに私を見たのに気付いて、私は小首をかしげた。
「どうかしました?」
「いや……女性にこんなことを言うのは失礼かもしれないんだけど……目線を合わせるのに苦労しないのは、珍しいなと思って」
私も宗広さんを見上げると、今更ながら違和感に気付く。
「確かに、私もあんまり見上げることってないです。身長、何センチですか?」
「最近図っていないけど、185センチかな。君は?」
「171センチです。モデルにしては小さい方なんですけど」
高いヒールを履くと180センチに届いてしまう私は、男性を見下ろしてしまうことも少なくない。
この身長のせいで男の人から敬遠されることも少なくないんだ。
「いやー、しかしわくわくするなぁ」
「ふふ、長年の夢だったんですね」
宗広さんは照れたように笑う。
「さ、こっちです」
宗広さんが道案内する。大通りから外れた少しわかりづらい道に入るので、珍しくて辺りを見回した。
こんなところにレストランがあるのだろうか。