ヴァージン=ロード

「……やっぱり、住む人や使う人のことを考えているかな」
「ぜひ詳しく聞かせてください」
「んー、結構感覚でやってるから、言葉で説明するのは難しいんですけどね。建築デザインって微妙なもので、自分の思い付きで作りたいものを作ってしまうと、実用性に欠けた芸術作品ができてしまうんです」

 宗広さんがビーフシチューを口に運んで、続ける。

「でもそんな場所には人は住めない。実用性を追ってしまえば、デザイン性が希薄になってしまう。結局は、バランスなんだろうね」

 私は宗広さんの言葉に、なんとなく自分の仕事を重ねてしまう。宗広さんの言っているのは、私がジュエリーを引き立てるのと同じで、自分の魅力が強すぎてしまえばジュエリーを殺してしまうし、自分の魅力が弱すぎればジュエリーを見てもらえない。

「僕はいつも、住む人がどんな風に暮らして、どんな風に生きていくのかを考える。僕の考えた空間で、彼らが生きていく姿を想像するのが、とても楽しいんです」

 彼の言葉にひどく親近感を覚えた。

「素敵ですね」

 とても、素敵だと思った。そして、彼の写真集が最高のものになればいいと心から願った。
 その後、他愛もない会話を交わしながらの楽しい食事の時間となった。




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