ヴァージン=ロード
「ほら、伊咲、胸張って」
夢乃が、慣れた手つきで私の顔にメイクを施し、髪の毛をセットする。トップにボリュームを持ってくるように、ワックスでくしゃくしゃにしていた。
私は黒いワンピースを着ていた。さまざまな模様のレースを何層にも重ね、ボリュームをだした歪なスカート部。肘まで覆った黒のロンググローブ。足元は素足だ。素肌の部分にはパールラメをのせ、肌の白さと艶を際立たせている。
アイラインには黒をのせ、グレイのシャドウでグラデーションにした。チークは濃いめのピンクを自然にのせている。リップは淡いピンクだ。
「うん、完璧」
夢乃がぱんっと手をたたいた。
「こっちも準備完了よ」
カメラを準備したカノンさんが立ち上がった。
「じゃあ、ISAKIちゃん、お好きなようにどうぞ」
「はい」
カノンさんは特に指示を出すことなく、微笑んだ。それに私も微笑み返す。宗広さんは、ちょっとだけ緊張した面持ちで私達のやりとりを見守っていた。
そこで私は深く息を吸った。
私は、猫だ。
流浪の黒猫だ。
この部屋の居心地が良くて、少しだけ足を止めた黒猫だ。
息を吐き切った瞬間、私は猫になった。