ヴァージン=ロード

 高い位置にある小窓からこぼれる光、壁のデザイン、家具の位置――その空間にある全てのものが心地よい空間を醸し出している。それこそ、写真からは伝わらなかった温かさが、確かにそこにあった。
 私が壁に寄り掛かって座ったり、窓から外をのぞいたり、ソファに寝転んだり――自由に動き回るのを、カノンさんが『一瞬』を逃さないでシャッターを押す。

 この空間の心地よさと温かさを全身で伝えることが、私の役目。

「はい、おっけー」

 カノンさんが声をかけた瞬間、私は大きく息をついた。

「良かったわよ、ISAKIちゃん」

 まだ抜けきらない私は、カノンさんのその言葉に反応できない。カノンさんはそのこともわかっていたのか、慣れた手つきでデータをタブレットに移すと、宗広さんに見せた。

「これは……」

 カノンさんがどんな写真を撮影したのかは、私にもわからない。でも、彼女は最高の一瞬を撮る最高のカメラマンだ。きっと、宗広さんも満足のいくショットがいくつも撮れているに違いない。
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