ヴァージン=ロード
アリスちゃんをリキに預けたカノンさんが、カメラを準備して私達の部屋を訪ねたときには、黒猫の衣装に身を包んでメイクとヘアアレンジを終え、私は黒猫になっていた。
高鳴る胸を抑えられない。
ここでの撮影は必ず素晴らしいものになると思った。
隣を見れば、カノンさんの顔に浮かぶ確かな自信。きっと彼女も、同じことを感じているに違いなかった。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、こちらです」
手直し用のメイク道具などを担いだ夢乃が宗広さんに声をかける。
そして私達は、ISAKIという黒猫は、ラヴィンユという白亜の迷宮に迷い込んだ。
居心地がいいと、心の底からそう思う。
宗広さんの案内の言葉も耳に入らず、黒猫となった私は気になるところに駆けては、立ち止まり、気のすむまで探検をする。
心地よい音楽のような宗広さんの説明に被せるように、カノンさんが黒猫の一挙一動に集中して、シャッターを切る音が響いていた。
「あ、ここから先ほどのカップルが出てくるところが見えるんですよ」
それはバルコニーに出たときだった。
先ほど聞こえていた鐘の音は挙式で鳴らされていたもの、そして披露宴もここで終えた新郎新婦が、眼下に見える長い階段から出てくるという。
ずきん
小さな音が、胸の奥で響いた。