ヴァージン=ロード

「苦手というよりも、怖かったの。人が怖かった。私ってば、こんな見た目でしょ? 父親に似ればそんな苦労もなかったんだろうけど、このきんきらの髪は目立つし、間違っても日本人には見えないしね……幼いころからいろいろあったの」

 その言葉の裏には、きっと私なんかでは計り知れないような深い感情があったに違いない。

「人が怖くて……人の視線が怖くて、私はずっとウィッグをかぶってたのよ。本当の自分を偽っていたの。人を撮ることだってできなかった。笑っちゃうわよね、そんな私が最高の一瞬を撮ろうとしていたのよ」

 カノンさんの告白に驚いて、私は黙って彼女の言葉を聞いていた。

「そんな私が人を好きになんてなれるはずがなかった……でもね、そんな私を変えてくれたのがリキだったの。彼と出会って、彼は頑なに拒絶する私の心を溶かしてくれた。私は自分のことを受け入れることができたし、彼のことも受け入れることができた。結婚って、そういうことだと、私は思ってる」

 結婚がどういうことか、きっとカノンさんはそんな話をして私の中の感情を整理させてくれようとしているのだろう。
 黙ってうつむく私の頭を、カノンさんが撫でてくれた。

「大丈夫よ、伊咲ちゃん。ISAKIなら、必ずこのラヴィンユでの撮影を成功させるわ」

 そう言って、カノンさんは部屋を出て行った。
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