ヴァージン=ロード

 だからこそ私は、モデルとしてこの場所を魅せなくてはいけない。
 白木宗広の作品集を、最高のものにしなくてはいけない。

 これができなくては、ISAKIになれなくなってしまう。


 私は立ち上がった。

「夢乃、私ちょっとラヴィンユを見て回りたい。ここがどれだけ素敵な場所なのか、私がわかる必要があると思うの」

 まだ、私の表情は硬かったと思う。全く心の整理だってついていない。
 それでも、今立ち止まったら、私を動かす炎が消えてしまいそうで怖かった。

「うん、そうだね。私はののの様子見てくるね。夕飯の時間に合流しよ」
「わかった。ありがとう」







 夢乃と別れてから、私はのんびり廊下を歩いていた。ここにいると、中世のお城に迷い込んだみたいだ。
 誰もいない控室、化粧室、階段、中庭――取り留めもなく歩いて、私は嫌というほど思い知る。ここは、宗広さんの想いが詰まった場所なのだと。

 これまで撮影を一緒にしてきて、宗広さんの自分の作品に対する思いが、私がモデルという仕事に対して抱いている思いと似ているように感じていた。
 きっと、これは親近感なんだと思う。感じ方や考え方がとてもしっくりくるのだ。

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