ヴァージン=ロード
「伊咲さん、聞いてもらえますか? 僕がどんな思いで、このラヴィンユをデザインしたか」
「……はい」
「ちょっと、長くなるんですけど……。凜さんは母の妹なんですが、実は独身なんです」
意外な始まりに私は息を呑む。あんなに若くて綺麗な人で、結婚をプロデュースしている人が独身だとは思ってもみなかった。
「凜さんには、結婚を誓った恋人がいました。僕はそのころ幼稚園か小学校に入ったばかりだったのであまり覚えていないんですが、何度か会ったことがあるそうです。
でも、凜さんの幸せは突如として奪われました。結婚式の準備も整えて、式を翌日に控えた日――凜さんの恋人は、交通事故で命を落としたんです」
私はあまりのことに口元を抑えた。
「それからしばらくは落ち込んでいた凜さんでしたが、ブライダルプランナーの仕事を始めました。あんなことがあったので、周りは凄く心配したそうです。でも凜さんは前に進みました。
自分みたいに結婚式を挙げられないカップルがいるのはごめんだと、できることなら自分の手で最高の式を作り上げたいのだと。
凜さん、前に笑って言っていました。自分は結婚式を挙げることはできなかったけれど、凜さんの手で送り出したカップルの結婚式を見るたびに、何度も彼と結ばれているような気持ちになれるって。
何度も、一緒にヴァージンロードを歩いている気持ちになれるって」