ヴァージン=ロード
彷徨う心

Roaming Heart



 その日は、ブライダルコレクションだった。最初にメンズモデル達がランウェイを歩き、次に私達の出番だ。
 最後に、男女のペアを作ってランウェイを歩く。そのペアと衣装の取り合わせは、デザイナーがバックステージで決めるというアドリブで行くというから、気が抜けない。

 戦場のようなバックステージでは、怒涛のような指示が飛び交い、モデル達やスタッフが一丸となって動いていた。
 ランウェイを歩き終わったモデルがすぐに着替えとメイク直しをする。ただでさえ、着付けに時間のかかる衣装だけど、決められた時間内で着替えなければならない。
 みんな汗だくになりながら準備し、ステージに上がる前には何食わぬ顔してランウェイを歩く。

 喧騒の中で、私も純白のウェディングドレスに身を包んでいた。これに袖を通すのは初めてではない。一昨年のブライダルコレクションにも出たからだ。

 だけど、前回と今回では少しだけ心持が違った。
 前回は複雑な気持ちでウェディングドレスに身を包み、ただただ必死にランウェイを歩いていたことだけ覚えている。

 でも今回は、違う。
 結婚が怖い、それだけじゃないと知っている。

 全部、彼のお蔭だ。

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