雪どけの花
「……お、大原!!」


僕の推理は当たっていたらしく、ドアを開けたすぐ脇の壁にもたれて座っている彼女の姿が目に入って慌てた。

その傍らには、黒い表紙の日直日誌が置いてある。


「大丈夫か、しっかりしろ!!」


膝を抱えるような姿勢で顔を伏せたまま、返事がない。


「大原…おい、大原」


軽く肩を揺すって名前を呼びかけると、小さなうなり声がして彼女が顔を上げた。

「良かった…」

思わずホッと呟いていた。

だが、彼女の第一声は僕が想像していたものとは大きく違っていた…。


「…狭間くん、どうしたの?」


「えっ…どうしたのって」


それはこっちのセリフだよ。

心配を通り越して呆れてるぞ、僕は。

「お前こそ何やってるんだよ、こんな所で。皆、心配して捜してたんだぞ」


「捜すって…あたしを?」


言って、辺りをキョロキョロと見回す。

空は夜になる1歩前だと気づき、そこで初めて彼女は事の重大さを知ったようだ。

「やだ、ちょっと気分転換にと思ってここで日誌つけてたら、いつの間にか眠ってしまったみたい。ごめんなさい」

大原は慌てて日誌を拾い上げると、立ち上がり制服の埃を払った。


「バカやろう、心配させるなよ!!」


僕は安心すると同時、怒りが込み上げてきて柄にもなく怒鳴りつけた。

「狭間くん…」

「人騒がせな事するなよ…本当に心配したんだ。皆が待ってるから、教室に帰ろう」

僕は彼女の手を取ると、非常階段を後にする。

大原は僕の手を振り払う事もそれ以上何も言い訳をする事もせず、黙って少し後ろを歩いた。

途中、中庭をウロウロしている高村の姿を見つけ僕は叫ぶ。


「高村、見つかったから教室に上がって来いよ!!」

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