雪どけの花
「もしかして最初、屋上に行ったか?」

「どこかで私を見てたの?」

「いや」

何だか全部見透かされてるみたいだと、大原は目をしばたかせた。

言い当てすぎると、気味悪がられるかな…。

「うん…狭間くんの言うとおり、行ったよ。行ったけど、鍵が掛かっていてドアが開かなかったから、仕方なく非常階段に行ったの」

「時間、覚えてる?」

「たぶん…5時ちょっと過ぎ、だったかな」

変な事に拘るのねと、彼女は笑う。

と言うことは、僕と入れ違いだったって訳か。

僕は1人でモヤモヤしていた気持ちを思い出して、小さくタメ息をついた。

それを怒っていると勘違いしたのか、彼女は僕のカッターの袖を掴んで急に立ち止まると、

「本当にごめんね、心配かけて」

元気のない声で謝る。

「私…」

「ストップ!!」

「?」

自殺しようとした理由を話すのが分かって、僕は彼女の言葉を遮った。

今さら知った所でどうなるわけでもないし、わざわざ辛い事を口に出して人に言う必要はないんじゃないかって思うんだ。

まだ少し思いつめた顔をしている大原に必要なのは、自分を責める事なんかじゃない。

怖くて踏み出せない一歩のためのに、誰かが少しだけ背中を押してあげることなんだ。

自分とみんなの間に作った壁を壊して、対等な立場でいるための…。
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