雪どけの花
雪どけの花
ひとしきり泣いて気が晴れたのか、気持ちが落ち着いてきたのか。
彼女はハンカチで涙を拭うと顔を上げた。
その表情がスッキリしていると思うのは、僕の気のせいじゃないはずだ。
やっぱり人間泣くっていうのは必要な事なんだ。
いつもは大人しくて、自分の感情を上手く表に出せなかった彼女が、これをきっかけに変われるといいなと心密かに思う。
そんな僕の視線に気づいたのか、大原は照れくささを感じたようにはにかんだ笑みを浮かべた。
「恥ずかしいとこ見せちゃったね」
「別に。僕だって今日はかっこ悪いとこ見られてるし」
授業中に倒れたことを思い出す。
僕の方こそ、みっともない姿だったんじゃないかと思うよ。
「…私ね、少しずつだけど変わりたいと思う。せっかく狭間くんが助けてくれた命だもの、大切にしないとね」
「僕が、じゃない。一緒に捜したみんなが、だろ?」
「…そっか。そうだよね。私は、みんなに助けてもらったんだね」
「うん」
僕たちはどちらが言うともなく、再び駅までの道を歩き出す。
分かれ道に差し掛かるまで、特に会話もなく黙っていたけれど重苦しい雰囲気ではなくて…むしろその沈黙の中に心地よさみたいなものを感じていた。
「じゃあ、私はバスだから」
明るい通りに出る手前で、彼女が左の道を指さした。
「あぁ、じゃあな」
「また《明日》ね」
ふわりと春の花のように笑うと、手を振って雑踏の中を走っていく。
僕はぼんやりとその後ろ姿が消えて見えなくなるまで、その場で見送った。
冷たい雪の下で春を待つ花のように…心強くあって欲しい――そう思いながら。
― 完 ―
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