まだ知らない愛。
その男から離れ、立ち上がり綾芽の元へと足を勧めたとき
「奏多!逃げて!!!」
綾芽は突然叫ぶ。
綾芽が見ている所は奏多ではなく、奏多の後ろに立ちナイフを振りかざす男だった。
綾芽の叫びも虚しく、奏多は後ろから腹部を刺された。
それから何度も蹴られ殴られ、今度は前から腹部を刺された。
「奏多…?奏多ぁ!」
拘束されていて動けない綾芽の声が路地裏に響く。
刺した男は逃げてその姿はない。
「嫌よ!死なないで!!!」
「あや…め…」
綾芽に届いた声はいつもの逞しく、透き通った声ではなく、それは弱く小さな声だった。
「お願いよ…私を置いて死なないで…」
掠れる声と滲む視界に映る奏多は綾芽を見つめながら
「綾芽…綺麗だ…」
微かに笑って静かに目を閉じた。
たった今来た俺はその光景を見つめることしか出来なかった。
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