まだ知らない愛。
綺麗だと言って目を閉じた奏多は路地裏に届く一筋の太陽の光に照らされていてあまりにも綺麗だったから。
こんな時にそんなことを思う俺は不謹慎だと思う。
だけどその光が天の迎えのように見えて静かに眠る奏多は綺麗だった。

それから俺はただ、綾芽のそばにいることしか出来なくて止める翔の言葉には耳を向けなかった。
「綾芽さんは兄貴の女だ」
分かってる。
「お前もそんなんじゃ二人してダメになっちまう…!」
分かってるんだ。
「頼むよ…」
悔しそうに呟く翔に心の中でごめんな、と謝った。

綾芽は一人でいるとあのことを思い出してしまうらしく、俺は夜も綾芽と寝た。
普通に寝る夜もあれば、綾芽に誘われて綾芽を抱く夜もあった。
それで綾芽が落ち着き、一瞬でも辛い過去を忘れられるならそれでいいと思った。
抱かれる綾芽は快感に顔を歪ませて「瞬…っ」
と奏多ではなく、俺の名前を呼ぶから。
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