まだ知らない愛。
器用に動くて手も伏せ目がちな目も黒いサラサラの髪も上目遣いの瞳も私の鼓動を乱すのには十分だ。

着付けができると私を一通り見て
「似合ってる」
と言って目を細める。
「ありがとう」
「間に合ってよかった」
「何が間に合ったの?」
「その浴衣は特注だからな、ちょうどさっきできたんだ」
特注って…
「わざわざ今日の日のためだけに!?」
あまりにも驚く私にため息をついて呆れたように言う。
「初めてなんだろ?夏祭り」
頷く私。
「だったら尚更だ」
そう言って総長部屋を出ていった。
あ…、もしかして初めての夏祭りだから記念になるように?
もっと思い出になるように、わざわざ特注にしてくれたの?
口では言わないその優しさに胸が苦しくなる。
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