よるをゆく
カシャカシャカシャカシャ。
連続してシャッターの下りる音が響き、僕はひそかにうっとりとする。このシャッター音がたまらなく好きなのだ。静かな世界を緩やかに裂くこの音が、彼女のいる空間を切り取って形に残していると思うと鳥肌が立つほどに感動する。
睫毛の揺れる様をたっぷりと撮って満足した後も、僕は彼女の動きに添うようにしてそのままカメラを向け続けた。
黒髪の靡くうなじ、細い肩、滑らかな指先、ふんわりと線を引くふくらはぎ。
彼女は本当に、惚れ惚れするほどに美しかった。体のどこを切り取っても僕の理想とする被写体そのものなのだ。
憂いを帯びた視線も、常に携えられた微笑みも。
彼女はステップを踏みながら歩を進め、商店街のアーケードを抜けた。
僕はひとつ溜息を吐いてカメラを下ろす。深夜でも淡く照明の点いているアーケード内と違って、外に出ればそこは紛れもない闇だ。カメラを固定し、シャッター速度を長くして光を集めないと写真なんて撮れたものではない。しかし彼女は僕の写真のために立ち止まってなどくれないのだ。彼女は気ままに夜を歩く。頭の中で音楽を流し、軽やかなステップを踏みながら。