不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
王の間から出ると、どこからか兵士たちが鍛錬をしている声が聞こえてくる。
そういえば、このあたりは訓練場が近いのだったわ。
渡り廊下を歩いていくと、その様子がよく見えてきた。
その中に見知った人物を見つける。
「ディラン……」
兵士たちに混ざって剣を交わす姿はいつ見ても無駄な動きがなく美しい。
そういえば、昔はよくあそこにも遊びに行った。忍び込んでは怒られて、けれど最終的には混ざって一緒に稽古をして……。
「いつから行かなくなってしまったのかしら……」
いつから、こんなにもわたくしの周りはがちがちに固められた石膏のように、身動きが出来ず自由がなくなってしまったのだろう――――。
――――『あなた方は、自由を持つことは許されない』
いつかのディランの言葉がよみがえる。
――――『これからも、自由と引き換えに何かを諦めたり、望みが叶わないことも幾度となくあるでしょう。そのたびにどうか、噛みしめて下さい』
「この国の姫たる血筋、責任と、その肩に乗る我らが民の希望を……」
呟いて、茫然とする。
ああ、そうなの。このこと、なの?
「この血を絶やさないためにわたくしは結婚しなければならない……」
胸が、苦しい。
「この国の『姫』として結婚という責任を負わなければならない……」
涙が、ぼろぼろと零れてゆく。
「国の平穏と繁栄が民の希望ならば、この国に戦を持ち込むようなことは決してできない……」
そうか、なんてわたくしは無知だったのだろう。
いまさらになって自由が欲しいと、そう望んでしまうほどに。
わたくしはこの肩に課せられた何もかもを全く分かっていなかったのだ――――。
「ディラン……」
小さく小さく呟いただけだったのに
遠くにいるディランが、こちらを振り向いた気が、した。