不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
『ねえ、ディラン』
そう呼ぶのは、いつも自分を振り回す、幼かったはずのお姫様。
6つと半分歳下の、小さな俺のお姫様。
元気で、いつも周りを巻き込んで、愛嬌があって少しわがままで。
好きなものは甘いプディングとピンク色のマーガレット。そして自惚れていいのなら、
『わたくし、ディランが大好きよ!』
恥ずかしげもなく、何度だってそう言って彼女は俺に手を伸ばす。
なめらかな肌と、絡まることのないブラウンの髪の毛、猫のような瞳。
その全てに、虜になった。
手を伸ばせば触れられる距離。
なのに決して超えてはいけない壁。
そっけない態度の中に自分でも持て余した感情をひそませて、戯れに触れては思わぬ柔らかさに罪悪感と背徳感が込み上げる。
もう、限界だった。……いや、とうに限界など超えていたのかもしれない。
「………ご婚約、おめでとうございます、我が君」
だからだろう。
彼女の婚約という決して自分が覆せない運命が、ようやくこのやり場のない想いに終止符を打ってくれたことに安堵すら感じていた。
「……ええ、ありがとう、ディラン」
それなのに、絞り出すような声にまだ煽られている。
その全てを自分のものにできる位置にまだ俺はいるんじゃないかと、錯覚してしまいそうになる。そんな位置にいた試しなど、ただの一度もないはずなのに。
視線を交錯させる。
苦し気な瞳は少女から女のものに変わっていた。
「もうしばらくの間だけ、貴女を守らせて下さいますか」
そう言うと、彼女は笑った。
「―――――許します」