不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
 
わたくしは、果たして上手く笑えてたろうか。


ディランへの気持ちを上手く隠し通せていただろうか。


……もしかしたらもう彼にはわたくしの気持ちなどバレバレなのかもしれない。


けれど幼いころからのわたくしを知っている彼には、いつまでもわたくしは『小さな手のかかる我が君』のままで。


こんな想いを後生大事にしていたところで、彼にとっても迷惑にしかならない。


それならばむしろ感謝するべきなのかもしれない。


わたくしの想いを終わらせてくれる運命に
わたくしの想いに気付かないフリをしてくれるあの人に。


「……ねえ、ディラン」


もう部屋にいない彼を呼ぶ。


いつもよりずっとずっと柔らかく、そしてずっとずっと想いをこめて。


「わたくしを今まで、守っていてくださってありがとう。もうしばらくだけ、わたくしから目を離さないでいてね」


―――――そうしてそれから数日後、婚約の承諾を記した手紙を携えた馬車が王都を静かに後にした。





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