不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く

「まさかあなたがわたくしの婿候補に立候補するなんて思いませんでしたわ、ラフィン殿下」


2週間後。
我が国を視察という名目で訪問してきたラフィン本人を目の前にして、わたくしは苦笑交じりにそう告げた。


すると彼は楽し気に肩をすくませる。


「開口一番にそれとは、俺の将来の妻はなかなかにつれないようだね」


「あら、でしたら断って頂いてもよろしいのに」


「ご冗談を」


ふたりでバラ園を歩きながら、青空の下で話す話題にしてはなかな不穏な空気をまとっている。


しかし相手はそれを楽しんでさえいるようで、なんだか居心地が悪い。


(物好きなひとなのかしら。こんな可愛げなく接しているのに、一向に気分を害する様子もないわ)


ふぅ、とため息をついて視線をさ迷わせる。
こんなとき、ディランにすがりたくなるクセを結婚式までには直さないといけないわ…。


「……どうして俺があなたに求婚したか不思議には思わなかったのですか?」


頬を撫でる風に乗って、ラフィンの声が届く。
その声に顔を上げる。


あの舞踏会でも感じたように、明るい日のもとにいてもやはり彼の顔は整っており、なにか人を魅了する力を持っているように思われた。


好奇心を隠さず、気になったことを物おじせず聞いて
いつも楽しそうで、未来有望な王子の姿を体現しているようで。


最初の印象は失礼な男だったにもかかわらず、なんだかんだで憎めない気がするのもその人柄が顔や態度ににじみ出ているからだろうか。


「……我がアリア王国が貴国エリシアに勝るところがあるとしたら、それは歴史と伝統、そして文化です。ですが最たるものはわたくしの血統です。このアリア王国の直系は遡れば大陸の祖であるアナスタシアに繋がります。……エリシアがこの血を求めるのに、特に疑問は抱きませんでしたわ」


そう、彼を見上げて一思いに答えると、初めて彼は不愉快だとでも言いたげな表情になった。


何が彼の癇に障ったのだろう。
あまりに歯に衣着せぬ物言いだったろうか。


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