不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
すると今度は彼がため息をついた。
「……サラ王女、どうか質問には的確にお答え頂きたい。俺は『どうして俺があなたに求婚したか』について意見を聞きたかったのです。それでは『どうしてエリシア王国があなたを求めるか』だ」
その言葉に眉をひそめる。
「違わないと思いますわ。その二つの問いは同義でしょう」
「いや、あなたは全く分かってない」
そして大きく一歩、彼はわたくしとの距離を縮める。
風を受けて顔にかかったわたくしの髪の毛を、ラフィンが少しだけ躊躇した後で右手で払ってくれる。
その指先は、ディランのものより少しだけくすぐったいような心地がした。
「……我がエリシア王国は父の代で一気に大国へと成長した、いわば成り上がりの国です。歴史も浅ければ、血筋だって怪しいものだ。たしかに傍から見たら、アリア王国第一王女という最高級の血統を求めているように映るかもしれない」
けれど、と彼は言葉を区切る。
そして強い色を宿した瞳でわたくしを見据えた。
「我が国はそれ以上に人柄を重視します。……知っていますか?成り上がるのに必要なものは案外人との繋がりだったりするんです」
そして、鮮やかに笑う。
「それを身を持って知っている我々にとって正直血筋なんてどうでもいいんですよ。それに、求婚したのだって国の意思じゃない。俺個人の意思なんです」
その台詞に目を見開く。
「……え?あなたの意思?」
「ええ。求婚の手紙をしたためたのも俺です」
「嘘……。それじゃあ、どうしてわたくしに求婚なんてしたの?」
まったく理由が思い浮かばない。初対面のあれだけで、わたくしを妻にしたいと思うだろうか。そもそも、あの一瞬のような出来事で彼のような男を落とせるなんて毛頭思えない。
素直に疑問を口にすると、ラフィンは意地悪く微笑んだ。
「どうして俺があなたに求婚したか、不思議に思って頂けたようで何よりです」
はぐらかすような台詞に頬をふくらます。
「答えは教えて下さらないの?」