不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
乾いた笑いがこぼれた。
気に入ったようでなにより?
それはあなたが私の気持ちに気付いているから……、ようやっと厄介払いができるっていうこと?
それとも純粋にわたくしの幸せを祈ってくれている?
どっちにしてもその台詞が胸を深く抉る。
まるで打たれた杭のように、引き抜こうとすればそこからどんどん血が滲んで痛みは増していく。
わたくしを想ってくれていないことは明白で、分かっていたはずなのに切なくて切なくてどうしてこんな男を好きになってしまったのか自分を恨みさえしてしまう。
「……興味など、当たり前ですわ。将来の旦那様になる方ですもの」
ごくん、と生唾をのむ。
嘘をつくのは得意じゃない。特にこの男の前では。
それでもせめてもの腹いせに、狡猾にわたくしは笑ってみせた。
「愛せる予感がしてますの、わたくし。こんな気分は初めてよ。くすぐったくて、ちょっぴり幸せなの」
クスッと照れたように微笑む。
これがわたくしの矜持だ。
どうせなら、この国の姫として磨いた嘘のつき方をあなたに披露して差し上げる。
「ねえ、ディランは誰かを愛したことがあって?」
そうして、悠然と微笑んだ。
滑稽で、哀しくて、酷く子供っぽく惨めだ。
こんなことに何の意味もないと分かっているのに。
どくどくと嫌な心臓の音がのどの下で鳴っている。
……けれど、目の前の男は表情一つ変えなかった。
ただ静かに、先ほどと同じ姿勢のまま佇んでいる。
(……なにか、答えなさいよ)
じゃないと、自分があまりに惨めで泣いてしまいそうだ。