不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く

コツンと靴を鳴らして、ディランがわたくしに近付く。


わたくしはただそれを見つめている。


丁度2歩分ほど空けて、椅子に座るわたくしと目線を合わせるようにひざまづいた。


「……どうしても、その質問に答えなければなりませんか?」


漆黒の髪、端正な顔立ち、低く通る声。
均整の取れた身体はしなやかで、身のこなしも見事で。


でもそんなとこを好きになったのではない。


「はい。……命令です」


すぐ小言を言うところ、呆れたように笑うところ、平気で嘘をつくところ。


「……本当に、仕方のない人だ、我が君は」


わたくしを今の時代誰も使っていないような敬称で呼んで、あなただけの主なのだといつも感じさせてくれるところ。


「いいじゃない、あなたの浮いた話なんて、わたくし一度も聞いたことないもの」


わたくしに甘いとこも、わたくしを一番に大切にしてくれるとこも


「……ありますよ」


……わたくしにいつだって誠実な瞳を向けてくれるところも。


挙げればきりが無いくらい、あなたのすべてが愛しかったの。


「どんな、ひと?」


真摯な瞳がわたくしを見つめる。
その瞳の中の自分は頑張って強がっている。


「……昔は素直で可愛らしかったのに、今は意地っ張りで可愛げのないひとです」


そして一呼吸だけおいて。


「私は、貴女しか愛したことはありませんよ、我が君」


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