不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
寝る前にメイドがいれてくれたホットミルクを飲みながら、わたくしは目の前に佇む黒髪の騎士をきつく睨んだ。
「あなた、それでも今年25の男ですの!?こんなか弱い一国の姫にそんな暴言吐いて良いと思って?」
「剣の腕ならそこらの衛兵よりお強い貴女が何を申すか」
ハッと鼻で笑われて、ぐぐぐと奥歯を噛みしめる。
レディとしてこんなとこで怒ってはいけないわ、こらえるのよ……!
「ふ、ふんだ。いいもの、別に。貴方に理解してもらえなくたって将来わたくしの旦那様になる方が認めてくれればそれで……っ」
「この世のどこかにおられれば良いですね、寝室のベッドの真ん中に抱き枕5つを占領させて下さる殿方が」
「………このっ、超絶性格ひねくれ男ッ!!あんたこそ嫁になってくれる女性をせいぜい必死で探すのね!!ぜーーーーーったいいないから!!!ばーかばーか!!」
最後は掴み掛らん勢いで詰め寄ってから、ハッとする。
しまった。またやってしまった。
ひょんなことから口喧嘩になってしまうのはいつものことで(今回はいい歳して抱き枕なんかベッドに置くなと言われた)、そのたびに後悔する。
サーっと青筋を立てるわたくしを落ち着かせるように正面からディランはポンポンと肩を叩いた。
「さあ、もう寝る時間ですから。
ベッドに入ってください。私は定時に帰りたい」
その表情の端々にめんどくささが滲んでいてわたくしは頬を膨らませる。
「どーせわたくしは貴方にとって厄介者ですわよっ」
べーっと舌を出して応戦すると、はあ、とディランは呆れたようにため息をつく。
そしてちらりと手元の腕時計を見て、
「では、もう公務の時間は終わりましたので、以後プライベートの私でお話させて頂きますが」
「……なによ」
ていうか、今までプライベートでも何でもないのにあんな失礼なこと言ってたのね。