不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
―――そのまるで愛の告白のような台詞なんかよりも、眉ひとつ動かさずにそう告げた、”騎士”の姿がわたくしの目に焼き付いた。
そして茫然とする。
その姿に、その理想の騎士像に、確かに酷く傷ついた自分に。
わたくしはどこかで期待でもしていたのだろうか?
気持ちは分かっているだなんて自分自身に言い聞かせながら、それでも願っていたのだろうか?
あなたがひとりの男として、わたくしを愛していてくれることを。
ふふ、と笑う。
どうか今だけは、持ちこたえていて。
「……そんな言葉にわたくしが騙されると思った?」
くすくすと笑うと、ディランは眉を上げる。
「せっかくの愛の告白を我が君はそんな言葉で貶めるのですか?」
「わたくしが分からないはずないでしょう。ひざまずいて、左胸に手をあててそんなこと言われたって……騎士として言われた台詞なんか、社交辞令のようなものよ」
そうだった。
そのポーズは紛れもなく騎士が主に忠誠を誓う時のもので。
騎士が主のみを想うことは義務であり、職務だ。……それならばその台詞だって。
「結局はぐらかすのね、あなた」
そう言うと、彼は立ち上がる。
少しだけ寂しそうに微笑んだ気がしたのは、わたくしの気のせいだろうか。
「そんなことを聞くだなんて、私のお姫様もおませになったものですね」
「……ばかね。あなたのお姫様だったことなんてないわ」
「ああ、……そうでしたね。あなたは私の主だ」
「……そうよ」
そして、頭にディランの手がのせられる。懐かしい感触に目を見開く。
「そしてもうすぐ、私の手から離れて別の男のお姫様になる」
くしゃり、と撫でられて、くすぐったくて。
堪えなきゃ、持ちこたえなきゃ、そうでないとわたくしは。
「別の男なんて言わないで」
「……すみません。ラフィン殿下、でしたね」
あまりに温かくて優しい手に、涙が溢れてしまいそうになる。