不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
大好きだ。
好きで、好きで、やっぱり好きなのだ。
溢れて、声に出して伝えてしまいたくて
それが許されないから、胸が痛くて仕方ない。
そっと離れて、もう一度頭を撫でてくれたディランを送り出して扉を閉めた。
そのまま扉におでこをくっつけて、ずるずるとしゃがみ込む。
「好きよ………」
やっと、堪えていた涙が頬を伝った。
息が苦しい。良かった、もう我慢しなくていい。
ひっく、としゃくり上げる。
「……ッ好きよ、好きよ、大好きよ、ディラン…っ。もうずっと前から、あなたのことが愛おしくておかしくなりそうなの」
ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。
いつからわたくしはこんなにも泣き虫になったのだろう。
「……愛してるの………。わたくしの王子様は、ラフィン様やほかの殿方なんかじゃないの。……はじめから、あなたひとりだけなのよ……どうか」
伝わってほしい。
こんなにも苦しくて辛くてそれでも楽しくて嬉しくて幸せな気持ちを教えてくれたのはあなただから。
「……大好きよ、ディラン……」
そのままそこでわたくしは、しばらく泣いて。泣き疲れて、とろとろとまどろみの中に落ちていった―――――。
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扉の向こうで泣き声がいつの間にか止んでいた。
しかし去る様子はなく、もしかしたらと静かに扉を開ける。
するとそこには子猫のように小さくうずくまった我が君の姿があった。
「……まったく、あなたという人は……。あたたかくして寝るように言ったばかりじゃないですか」
すやすやと眠るその頬には幾筋もの涙の跡がついていて、瞼は少し腫れて赤みを帯びている。
その姿が痛々しくて、眉をよせる。
身体を抱き寄せると、静かな寝息と甘い匂いが立ちのぼる。
……愛おしくておかしくなりそうなのは自分も同じだった。
「……本当に厄介だな、あなたは」
そのまま抱きかかえて寝室へと向かう。
やはり昔とは違い、運ぶのも一苦労だった。重さも然りだが、抱きかかえたときの柔らかさが、いろんな意味で苦痛を伴う。
ゆっくりと起こさないようにベッドに横たえると、彼女は自分から毛布にくるまる。
その姿が愛らしくて、つい頬が緩んだ。
「……可愛いな、あなたは…」
そっと頬に手を這わせる。
涙の跡をこすると、ちょっとだけ眉を寄せて嫌がる。
そのまま頬を伝い、唇へと親指を這わせる。
小さくぷっくりとした唇に目眩がしそうだった。
いつから自分はこの愛らしい少女をこんな目で見つめるようになってしまったのだろう。……いや、もう少女ではないのか。
彼女ももう19になる。