不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
『へえー!ねえディラン、知っていて?マツタケにも花言葉があるんですって』
『はあ、何て意味ですか?』
『控えめ』
『ふむ。我が君にはぜひとも体得していただきたい言葉ですね。実に興味深い』
『あなたね……』
『ところで、さっきから我が君は何をなさっているのですか。お暇ならば、ウィルキンス先生の講義の――』
『ど、読書!忙しいの!しかも将来に役立つし!』
『ほう。花言葉がどう将来に役立つのか知りたいものですね』
『あなたに贈るのよ』
そう言うと彼は眉をひそめた。
『……我が君、いくらあなたでもあんまりです。私との契約を破棄したいのですか?』
『そうじゃなくて!……将来結婚、とかなったら、ほら……やっぱりあなたに花を贈らなきゃならないこともあるのかなって』
そして言葉を選ぶ。少し、恥ずかしいけれど。
『それなら、ちゃんと意味のある花言葉を持つ花を贈りたいの』
そう言うと、彼は目を見開き、そのあとでほんの少しだけ淋しそうな表情になる。
『……そうですか』
『ええ。ほら、これとかどう?サンダーソニアで”祝福”』
『ああ、悪くないですね。ですが俺はマーガレットの方が好みですね』
『え?うーん。いくつか意味があるのね。どれのことを言っているの?真実の友情?』
『さあ、それはご想像にお任せしますよ、我が君』
――――あの日、彼は何のことを言っていたのだろう。
結局分からずじまいだ。
手元に視線を落とす。マーガレットはまだ瑞々しい。
机の上にある空の花瓶に水桶から水を注ぎ、わたくしはマーガレットをそこに挿した。
水をはじくその花は、わたくしが一番可愛らしいと思っていたもの。
そして、貴方は気付いているのだろうか。
これが貴方からもらう初めての贈り物になったのだということに。
「……あんまりだわ。最初で……最後の贈り物がよりによって花だなんて」
そしてもう一つの贈り物……白い封筒を持ち上げる。
震えは落ち着いていた。
いまなら、さっきよりはまともな頭で読むことができる気がする。
わたくしはもう一度机まで歩き、ペーパーナイフを取り出し、静かに手紙の封を切った。