不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
手紙の中には一枚の便箋。
流麗な文字がそこには簡素に並んでいた。
―――――マーガレットの花言葉、あの日私が指していたのは”真実の友情”などではありません。
一番最後に並んでいた言葉が、私が我が君に最後に贈る言葉になるでしょう。
何も言わずに城を去ってしまったこと、どうかお許しくださいませ。
ですがどうか、忘れないで頂きたい。
いつ、どこで誰と共にいようと、私は心から貴女さまの末永い幸せを祈っております―――。
……最後に並んでいた言葉?
ガタリと椅子から立ち上がる。
あの本はどこに仕舞ったのかしら。
本棚に駆け寄り、片っ端から探していく。
たしかどこかにあったはずだ。でもいったいどこに。
本を取り出し、パラパラとめくるもやはり違い、その作業を次から次へと繰り返す。もう題名も忘れてしまった。こんなことならちゃんと覚えておくんだった。
「ディラン……っ」
いったいあなたは何をわたくしに伝えたかったの。
どうして何も言わず去ってしまうの。
――――『この本、もう読まないのですか』
『ええ、とりあえずまだ当分は結婚する予定もないし、またそのときにでも考えるわ』
『……では、我が君。これを、私が預かっておいてもよろしいですか?』
はたと思い出す。
そうよ、ディラン。あなたにあの本は預けたんじゃない。
そこまで考えてわたくしはめちゃくちゃになった本棚もそのままに走り出した。
使用人たちの静止の声を押しのけて、ドレスの裾をたくし上げて廊下をひた走る。
はやく、はやく、はやく。
風を切って、汗の滲んだ部分がすうすうして、こんな王女にあるまじき振る舞いをして、それでも走らなければならなかった。
一刻も早く、その言葉の意味を知りたかった。
「あっ、サラ!お前また走って!少しは王女らしく―――」
「お兄様どいて!今はそれどころじゃないの!!」
「ていうか遠征から半年ぶりに帰った兄に対してその発言!?」
廊下の真ん中にいた兄も押しのけて、王宮をどんどん奥へと進んでいく。
そして、ついに。
「着いた……」
はあ、はあ、と息を切らせて辿り着いたのはディランが普段使っている私室だった。