不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
END1
「ねえ、お母様」
「なあに?リトル・プリンセス」
膝に乗って、わたくしに甘えるように抱き付いてくるのは、このまえ3つになったばかりのエリシア王国第一王女……すなわちわたくしの娘だった。
愛らしい顔立ちだけれど、すこしつり目がちなのが父親にそっくりで、そこもまた愛おしい。頭を撫でながら我が子の話に耳を傾ける。
「そういえばね、さっきお父様がお母様にもうしばらくしたらバルコニーまで来て欲しいって言っていたの」
「あら、そういうことは早く言って頂戴な」
そう言って彼女を膝から降ろす。
「わたくしも行っていーい?」
可愛らしいおねだりにクスクスと笑う。
「いいわよ。じゃあ先にバルコニーに行っていて?わたくしもすぐ行くから」
「はあい」
ぱたぱたと駆けていく少女を見送ってから鏡へ向かう。この間の結婚記念日にもらったネックレスをまだ付けていないことに、夫がこの前たいそう拗ねていたことを思い出したのだ。
「いつまでも子供っぽいんだから…」
そうひとりごちながら、繊細なデザインのネックレスをつけて、少しだけ化粧も直す。
「まあ、いつまでも新婚気分が抜けないわたくしも、大概よね……」
おおらかでいつも楽しそうに笑う、悪戯好きの夫に、いつからかわたくしは惹かれていて。そんな自分を不思議に思う。
……すべては、いつの間にか時間が解決してくれることなのかも知れなかった。
「……おお、来たか!アウーラ」
子どもを腕に抱きながら、にこやかに手を振ってくる夫につられるように微笑む。
バルコニーは春の日差しで溢れていて、その光景は美しい一枚の絵のようだった。
「ごめんなさい、お待たせしてしまった?」
駆け寄ると、彼は首をふる。傍らのテーブルには花瓶に美しいピンクマーガレットが溢れんばかりに活けられている。いつからかこの花を見ても、胸の痛みは疼く程度のものになっていた。
「いや、ちょうど良かったよ」
なにがちょうど良かったのだろう。
そう思って、夫が顔を向けたバルコニーの下の庭園につられて視線を向ける。
「え……?」
その、姿に。
わたくしは声を失う。